第5節 次の時代を生き抜くチカラ

  • 2025/10/16
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第4節までをまとめる形で章題の”次の時代を生き抜くチカラ”について整理します。ここでは大きく分けて3つになると考えます。1つ目はすべての土台ともいえる”愛する”チカラ、そして2つ目と3つ目は互いに並列して関係しあう”自分と向き合う”チカラと”世界とかかわる”チカラです。順に確認します。

 

①愛するチカラ

自己肯定感を高めるためや他者と繋がるため、またダイバーシティの観点からも”愛”が必要です。ここからは「そもそも”愛”とは何か」、また「”愛される”ではなく”愛する”」点についても言及します。

 

“愛は技術である”

冒頭でそのように語るのは「愛するということ(エーリッヒ・フロム)」です。世界的初版は1956年とされる大ベストセラーの本書ですが、”愛”の前提について次のようにまとめられています。

  1. 愛される(受動的な)ものではなく、愛する(能動的な)ものである
  2. 対象(運命の人)ではなく、能力(愛するチカラ)の問題である
  3. 体験(恋に落ちる)ではなく、持続的な状態(愛している)の問題である

こういった巷の勘違いの訂正から始まる本書ですが、その他にも次のように述べています(以下、藤田意訳)。

 

愛とは、知識、配慮、責任、尊重といった基本的要素がありながら、”与える”ことができる高度な表現である。

成熟した愛は、熟慮の末の答えとしての愛であり、自分の全体性と個性を保ったままでの結合であり、人間の中にある能動的な力である。

 

例えば「推しアイドルを愛している!」と主張する友人がいたとして、その友人が当該アイドルの代表曲や所属グループ名を知らなければ、「本当に愛しているの?」とその愛を疑ってしまうでしょう。好意を寄せている相手だからといって、本番中の舞台に立つ彼(彼女)に駆け寄ってしまう様からは配慮が感じられず、そこに愛は見出せません。推しアイドル(愛している対象)がコロコロと変わってしまう場合もまた、発言や感情の重み(責任)を感じられず、愛を疑ってしまいます。アイドルとしての卒業が発表されたのち、本人の身の振り方について、頭ごなしに否定してしまっては、アイドルへの尊重がなくやはり愛を感じられません。

総じて愛することは能動的な”与える”能力であり、持続的な状態を指す言葉であり、そこには自他への知識、配慮、責任、尊重が伴うものであることが分かります。そしてこれらは”技術”のため、後天的に獲得が可能であると述べています。

 

愛に無関心ではいられない

愛の大前提は、自分を含めたあらゆる人や事物、世界というものが、その人の中で”関心事である”ということです。愛に限らず何かに関心を持たせようとすることは誰かにであっても、自らであっても難しいです。しかし「自分は世界の一部であり、世界は自分の延長上にある」とすれば、こと愛については無関心でいられなくなるのではないでしょうか。

また、自らを愛せていない時に他人からの愛は受け取れません。自分でも嫌いな自分を、好意に想ってくれる相手を愛することが難しいためです。(これによって自己愛のない人が恋愛を苦手とします。)つまり、どれだけ自分の理想とかけ離れた自分であっても、他者との比較で辟易してしまうような自分でも、人間関係を構築する上で自己愛を放棄するわけにはいかないのです。したがって、愛に無関心ではいられません。

 

②自分と向き合うチカラ

自分や相手、事物、世界に対して”愛する”構えができた後は、生涯を通して自分と向き合うチカラも必要と気付きます。

トレンドともいえるITや金融にまつわるリテラシーやスキルの獲得・向上だけでなく、トラディショナルな知識・スキルも獲得することで、世界との接点が増えます。そういったスキル習得の過程や世界と接点を持つ中で、うまくいくこともあれば、そうでないこともあり、様々な”感情”と直面します。

人間は感情の生き物が故に、それは不可分かつ尊いものでありながらもコントロールの難しい厄介な存在でもあります。誰しもに幼い時分があり、拙く、未熟な言動を”黒歴史”と称して笑いに転嫁しながらなんとか生き抜こうとします。

年齢を重ね、人生に責任が伴うようになり、行動選択を迫られるその時、自身がどう在りたいのか、どう生きていきたいのかを問われることになります。ここで問われる”あり方”は生きる中でアップデートを重ねるものです。”あり方”に絶対解は存在せず、妄信できる世界観もまたありません。生涯に渡って自分と向き合い続ける、そんなチカラを育むことが大切です。

 

GRIT

”自分と向き合い続けるチカラ”の具体例として、「GRIT」を紹介します。昨今、学力等に代表される”認知能力”だけでなく、自己肯定感やコミュニケーション能力など数値化しづらい”非認知能力”の大切さが叫ばれています。その非認知能力の代表例のひとつがGRIT(Duckworth,2016)です。GRITという名称は、ペンシルベニア大学教授の心理学者アンジェリア・リー・ダックワース氏が次の言葉の頭文字からつけました。

Guts(度胸):困難に立ち向かう

Resilience(復帰力):失敗しても諦めずに続ける

Initiative(自発性):自分で目標を据える

Tenacity(執念):最後までやり遂げる

平易に「新しい課題にも率先して何度でも挑戦する姿勢」を指す言葉であり、多くの著名人もこのチカラの有効性について共感しています。

 

③世界とかかわるチカラ

「ひとりでは生きていけない」これはネットワークを築くことで進化してきたホモ・サピエンスとしての宿命です。世界と同時接続をも可能となった現代では、愛するチカラをもって世界と繋がりにいく姿勢が不可欠です。しかしその世界に飲まれないために、自分と向き合うチカラだけでなく、世界や常識を疑う姿勢を持つこともまた肝要です。また必要に応じて、中長期的にも自分と世界を切り離す選択肢が持てることも大切です。そのようにバランスを取りながら世界とかかわるために必要とされる具体的なチカラ(非認知能力)について3つ挙げます。

 

コミュニケーション能力

目的の違いから大きく2種類のコミュニケーションの取り方があります。相互の理解を目指す論理的なコミュニケーションと、共感を目的とする感情的なコミュニケーションです。これらは男女の特徴的な差として取り上げられることもありますが、個々人の”思考のクセ”の類いのため性差はないとされることもあります。この2つの境目はあいまいなことが多く、大人でも苦手とする方が多いです(日常会話の中で思い当たる節があることでしょう)。

また、会話の局面ごとに考えると、発言・傾聴・調整(交渉)と分けることができ、自身や相手の得意・不得意を踏まえてコミュニケーションに臨むことで円滑になります。

 

課題発見力・課題設定力・課題解決力

GRITについて「新しい”課題”にも率先して何度でも挑戦する姿勢」と紹介しました。しかし、ビジネスシーンのみならず日常生活の中でも「これは”課題”である」と見つけることができなければ解決に向けて思案することができません。また、解決に向けてクリティカルな仮説を立てられなければ、やはり解決に近づきません。そして、解決したように見えても継続性がなかったり、別の課題が発生するようでは解決になっていません。

例えば、脱ぎっぱなしの靴下がリビングに置かれ続ける事案が発生している家庭があったとします。いつまでもこの課題に気付かない自分以外の家族だけでは、改善は期待できません。また、度重なる口頭注意の上でも改善しない日には、いつしかしびれを切らせ「もう靴下なんて履くな!」といった策を講じたくもなりますが、おそらくそれは誤りでしょう。また、一見反省したような姿を見せても、靴下に変わって上着の放置が発生するようでは解決とは言えません。本件に関する課題点は”同居人への配慮がない”という点にあるからです。この過程には、コミュニケーションをサボることなく、課題意識を持って向き合ってほしいと願っています。

 

ソーシャルスキル

その他、雑談力(教養の深さや他人との接点探しの巧みさ)や自己開示性(素直さほか)、想像力や創造力など、AIに代替されづらいことや、人となりが垣間見えるようなチカラが求められています。